東京地方裁判所 昭和24年(ワ)831号 判決
原告 徳永寛治
被告 岩永正次
一、主 文
被告は、東京都新宿区若松町六十七番地の一宅地百七坪九合四勺のうち十六坪一勺六才、即ち右宅地東南隅の、市ケ谷方面から東京都電車河田町停留場を横断して北方へ直線に延びる公道に接する地点にある布コンクリート(土台)の東北角を(イ)点とし、(イ)点から右公道の西辺に沿つて北方へ一間の地点を(ト)点とし、(イ)点から(イ)(ト)線と九十一度二分五厘の角度をもつて西方へ直線に十間九分五厘延ばした地点を(ハ)点とし、(ハ)点から(ハ)(イ)線と九十七度二分八厘の角度をもつて北方へ六間一分七厘延ばした地点を(ニ)点とし、(ト)点から(ト)(イ)線と八十八度三分五厘の角度をもつて西方へ直線に十間一分延ばした地点を(ヘ)点とし、(ヘ)点から(ヘ)(ト)線と九十七度二分八厘の角度をもつて北方へ直線に五間一分二厘延ばした地点を(ホ)点とし、右(イ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(イ)の点を順次結ぶ直線に囲まれた土地十六坪一勺六才に対する原告の占有を妨害してはならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。
原告は、昭和二十年三月末、訴外稻垣市郎から、その所有地東京都新宿区若松町六十七番地宅地三百九十一坪の西南隅にある同人所有の木造瓦葺二階建一棟建坪十八坪外二階六坪を賃借して居住してきた。この家の敷地は公道からはるか離れているので、原告は市ケ谷方面から東京都電車河田町停留場を横断して北方へ延びる公道に出るために幅約一間、長さ約十間の通路を使用していた。通路というものは、右宅地東南隅の、右公道に接する地点にある布コンクリート(土台)の東北角を(イ)点とし、(イ)点から右公道の西辺に沿つて北方へ一間の地点を(ト)点とし、(イ)点から(イ)(ト)線と九十一度二分五厘の角度をもつて西方へ直線に九間九分五厘延ばした地点を(ロ)点とし、(ト)点から(ト)(イ)線と八十八度三分五厘の角度をもつて西方へ直線に十間一分延ばした地点を(ヘ)点とし、右(イ)(ロ)(ヘ)(ト)(イ)の各点を順次結んだ直線に囲まれた幅(南北)約一間、長さ(東西)約十間、坪数九坪九合五勺八才の土地を指し、これは原告の賃借家屋のための專用通路であり、原告はこれを継続して使用していた。
また前記宅地のうち、(ロ)点から(ロ)(イ)線と九十七度二分八厘の角度をもつて(ヘ)点を経て北方へ六間二分二厘延ばした地点を(ホ)点とし、更に(イ)点から(ロ)点にいたる線を西方へ一間延長した地点を(ハ)点とし、(ハ)点から(ハ)(イ)線と九十七度二分八厘の角度をもつて北方へ六間一分七厘の地点を(ニ)点とし、(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ロ)の各点を順次結んだ直線に囲まれた幅(東西)一間、長さ(南北)六間余、坪数六坪五勺八才の部分は賃借家屋の敷地の一部であり、原告は玄関口、勝手口、汲取口への通行のために継続して使用していた。
即ち、本件土地はいずれも原告が前記家屋を賃借して居住するようになつてから、ひきつづき占有してきたものである(係爭地の略図は別紙のとおりである)。
ところが原告借家附近の家屋は昭和二十年四、五月の空襲で全部焼失し、原告の賃借家屋だけは罹災を免れた。
その後、稻垣は前記六十七番地の宅地三百九十一坪を、六十七番地の一宅地百七坪九合四勺、同番地の五宅地六十八坪九合一勺(原告の賃借家屋はこの上にある)、同番地の六宅地六十二坪八合三勺、同番地の七宅地五十二坪二合、同番地の八宅地四十三坪五合、同番地の九宅地五十五坪六合二勺に分筆して、そのうち六十七番地の一宅地百七坪九合四勺を被告に賣渡した。その結果、原告の占有にかかる右(イ)(ロ)(ヘ)(ト)(イ)を結ぶ通路の部分と右(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ロ)を結ぶ土地(原告賃借家屋の敷地の一部)は被告の所有地にはいつてしまつた。
かくて原告は右賃借家屋への出入通路と敷地の一部(玄関口、勝手口、汲取口への通行の用に供されていた部分)との使用を妨げられるおそれがあるに至つたので、新所有者である被告に対し、右土地を引続いて使用させよと交渉したが、被告はこれに應じないのみか、右土地に樹木を植栽するなど、原告の土地使用を妨害しようとした。
よつて、原告は、占有権に基ずいて、被告に対し、占有の妨害停止を求める。
かように述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり答弁した。
原告がその主張の稻垣所有家屋を賃借して、居住していること右家屋が戰災を免れて残つたこと、稻垣が原告主張の稻垣所有地三百九十一坪を原告のいうように分筆し、六十七番地の一宅地百七坪九合四勺を原告に賣渡した結果、原告のいう土地の部分が被告の所有地となつたこと、被告が原告のいう土地の部分に樹木を植えようとしたことは認めるが、その他の原告主張の事実は否認する。
被告は、昭和二十三年五月六日稻垣から前記宅地百七坪九合四勺を買受けた際、稻垣との契約に基ずいて被告所有宅地の北側と、前記六十七番地の七、同番地の八の宅地の南側との境界に、隣地所有者と相談の上各四尺五寸ずつを出し合つて、原告のために、公道への通路として、九尺幅の通路を設けた。かくて原告の公道への出入には少しも不自由なくなり、從つておのずから原告は係爭土地に対する占有(かりに原告がもつていたとしても)を失つたのである。被告が係爭土地に樹木を植栽することは、決して原告の占有を妨害するものではない。
かように述べた。<立証省略>
三、理 由
原告がその主張の稻垣所有家屋を賃借して居住していること右家屋が戰災を免れて残つたこと、稻垣が原告主張の稻垣所有地三百九十一坪を原告のいうように分筆し、六十七番地の一宅地百七坪九合四勺を被告に賣渡した結果、原告のいう土地の部分が被告の所有地となつたことは、当事者間に爭いがない。
そこで、原告のいう土地の部分を原告が占有しているかどうかについて、判断する。
眞正にできたことについて爭のない甲第三、四号証と証人稻垣市郎、坂上徳三郎の各証言、原告本人訊問の結果並びに檢証の結果とを合せ考えると、次のとおり認めることができる。
原告の賃借家屋の敷地は、被告所有の六十七番地の宅地三百九十一坪の西南隅に位置していて、戰災前までは周囲は隣家に囲まれ、公道に出るには原告のいう(イ)(ロ)(ヘ)(ト)の通路を通るほかなかつた。この通路は、前記原告賃借家屋の居住者のために特に設けたもので、殆んどその家屋の玄関口に直線に延びていて、戰災以前には、(ロ)(ハ)のほぼ中間の地点と(ヘ)とを結ぶ線上にこの家屋の正式の門(観音開き)があり、なおそのほか(イ)(ト)の公道に接する地点にも原告の表札をかかげた門柱がたつており、公道から前記家屋へ出入する通路として、原告は常にこれを使用していた。しかも、この通路を專ら使用する者は、原告の家の者だけであつた。そして戰災により隣家が燒失して周囲が空地となつたのちも、原告は從前のとおり右の通路を公道への通路として使用していた。また、前記(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ロ)の部分は、原告の賃借家屋の敷地に属し、戰災前までは(ホ)(ヘ)の線に沿つて竹垣があり、原告はここと玄関口、勝手口、汲取口等へ通るのに使用していた。
かような事実を認めることができる。この事実によると、原告のいう土地の部分は、原告がこれを占有していたことを認めることができる。この認定を動かすことができる証拠はない。
被告は、その所有地六十七番地の一宅地百七坪九合四勺の北側と、前記六十七番地の七、同番地の八の宅地の南側との境界に、原告のために九尺幅の通路を設けたから、原告は公道への出入に不自由せず、從つておのずから係爭地に対する占有を失つた、と主張するが、甲第三号証、乙第一号証(証人稻垣市郎の証言によつて眞正にできたものと認められる。)と証人稻垣市郎の証言並びに檢証の結果とを合せ考えると、次のとおり認めることができるから、被告の主張は採用することができない。
即ち、被告所有の前記宅地の北側と六十七番地の七、同番地の八の宅地の南側との境界にある通路は、稻垣が前記所有地六十七番地宅地三百九十一坪を分筆して被告に賣渡した際、被告と隣地所有者とが協定して四尺五寸ずつ各自の所有地を出し合つて、原告のために新たに設けたものである。しかし、この通路を原告に通路として使つてもらうことについては、予め原告の諒解を得ていないし、後から原告が從前の通路を廃止して、右の通路を通行することにすると、承諾したこともない。しかも右の通路は、未だ奥の方は未完成で、原告賃借家屋の敷地に接するあたりは出來上つていないのみか、原告が右通路へ出ようとすれば、どうしても前記六十七番地の六の他人の土地内を通らなければならないようになつており、この六十七番地の六の所有者は、そうすることに承諾を與えているわけではない。そしてまた、かりに原告が右の通路を利用するとしても、この通路は原告居住家屋の横から勝手口をまわつて玄関に達するようになつていて、原告にとつては甚だ不便な通路である。
かような事実を認めることができるのであつて原告が係爭土地に対する占有を失つたことは、とうてい認められないのである。
被告が係爭土地の上に樹木を植えようとしたことは、当事者間に爭いがない。そして証人坂上徳三郎の証言と原告本人訊問の結果とを合せ考えると、被告は係爭土地中(ハ)(ニ)を結ぶ線上及び(イ)(ハ)を結ぶ線上に生垣を設け、原告の通行、使用を禁じようとしていることを、認めることができる。被告のかような行爲は、原告の本件土地に対する占有を妨害するものでありかつてかようなことをした以上將來被告が原告の占有を妨害するおそれもある、といわなければならない。
被告に対し係爭土地に対する原告の占有の妨害を停止すべきことを求める原告の請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 新村義廣 新見俊介 西村宏一)
図<省略>